生ノ態【コト】

大気の入り江

五感で茶会のように体験するリスニング・インスタレーション

「大気の入り江」は音、匂い、気配、時の流れなどを五感を使って茶会のように体験するリスニング・インスタレーション・・・

そこは逗子駅の線路沿いの古いバラックな空間。
京急逗子線(京急線)が通る度に、けたたましく建物の窓が音をガタガタと立てる。
しかし、床や壁は質感を損なわずにきちんとリノベされていて、
天板をぶちぬいた天井は思いのほか高い。
無造作に吊られた銅板のオブジェクトが時折ゆらめき反射する。

空間の真ん中には正方形の銅板。
その上には、透明な器や、円板、円錐など幾何学的なオブジェクトや
真鍮等いくつかの金属棒も配置され、漢方の薬草らしきものも転がっている。
客は正方形のステージの周囲3辺に座り、中心に向かい合って座る。
あたかも茶室のような見立て。

出演者2名は、観客と同じ目線で茶室にいるかのように佇み、
ゆっくりした間合いの中、茶を立てるかのように行為する。
ただし、扱うのは椀や抹茶ではない。
茶に似つかわしくない道具やオブジェクトたちだ。

沸騰した湯が器に注がれ、熱風と湯気がふわっと立ちのぼる。
おもむろに取り出されたハンマーで薬草がぐしゃっとつぶされ、四方にいい香りが発せられる。
バーナーで熱せられた石に水をかけた瞬間、じゅっと蒸発音が立つ。
木の実が割られ、客にサービングされる。
ゆっくりたんたんと引き伸ばされた時間の中で、突然と行為と出来事が立ち上がっては消える連続

すべてが予定調和ではない。
唐突、読めない、予想がつかない。
しかし、現象としては日常に起こることばかり・・・。
日常のシーンでありながら、いつもとは少々違うモードで見入ってしまっている。
より見ようと、より聴こうと、より嗅ごうと、より味わおうと、より触れようとさせられている。
凛と緊張感のある時間、鮮明で感度の高い空気感。
映画の1シーンを観る観客でもありながら出演者でもあるような共犯感覚と没入感。
静謐だがエキサイティングな時間。

そして翌日から生活の中に混入しはじめた”大気の入り江”的時間。

photo by hiodehiko miura

by G

大気の入り江

date
2019年5月
place
逗子

「大気の入り江」は音、匂い、気配、時の流れなどを五感を使って茶会のように体験するリスニング・インスタレーションです。 2018年より逗子、白楽、新木場など神奈川と東京のユニークな場所で開催してきました。

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