生ノ物【ヒト】

入口可奈子

はかるひと

入口可奈子さんは、はかる。

日々を測り、記録するひとです。
系統を分けた5〜6の日記をつけているという話、
オリジナルフォーマットの日記帳を考案して発注しているという話を聞くだけでも驚きに値する記録業界(?)のツワモノです。

モノやデータを収集して日記をつけ、
集積されたあらゆる事物を、素材として発想し手を動かして試作し
思いがけない視点から物事を並べ替えて、配置して、現象の再認識を促すような空間を提示するというような展示を行っています。

「自分自身の物差しみたいなものをどうやったら作れるのであろうか みたいなことは考えているかなと思っています」と、語る入口さんの展示内容の話を通して入口さんの志向性を紐解いて見ようという試み(対談)でした。

by H

いつか何者かと問われたら、「私は地面」と答えたいと思っています。

一見大胆でトリッキーなフレーズに思えたが、話せば話すほどに入口さんが暮らしの中で大切にしている視点やものづくりへのスタンスをよくとらえたフレーズだ。

「地面」は海や山にさえぎられて立ち止まってしまうような地球規模のランドスケープではない。自分が暮らす足元に展開するあくまでも自由な地平である。

自分が立つ地点に起こる多様な出来事を見つめ日々を記録する。自分が居る座標と次に行きたい座標との間に起こる幾通りもの現象を楽しむ。手を動かし世界との距離感をはかる。しっかり足を踏むことで伝わるリアリティを感じとる。

俯瞰でありながら雑瞰。

「Noise」(2021年)では、
日々の生活で気になった生活音(=ノイズ)を1分単位で収録。その音を録った場所の写真とセットで視聴する60パターンの作品として展示。
興味深かったのは、当時入口さんご自身は不意に聞こえてくるノイズが苦手で外出する時にはいつもヘッドフォンをしていたという事実。ある時ヘッドフォンを外した時に聴こえてきた(聴けた)音がなぜか印象に残り記録しはじめたとのこと。
なんの変哲もない画像と環境音であるものの、入口さんがヘッドフォンを外した時に聴こえてきた音への驚きや見えた世界の鮮やかさ、そして瞬間を逃さない手慣れた記録行為が同時に折り重なって伝わってくる点がとても興味深い。

次に、入口さんの作品が決して限定的でクローズドな領域なものではなく他者の介在によって起こる可変性やひろがりを楽しんでいることは、以下3つの作品からわかる。

「私的考現学への歩み」(2019年)
これは様々な人の足型と歩幅をはかり、それらのデータをもとに紙と漆を用いて物差しとして表したものである。
考現学的な視点から、人の歩みの差異をどう採集し表現するかを考えた。

「居構-igamae-」(2021年)
様々な人に座標の記された表を提示し、好きな座標を選んで貰い、その座標番号をタイプライターで打った紙の箱を座標の位置通りに配置したもの。感染症拡大により外出の制限を余儀なくされたことから、展示に足を運べなくても体感できる何かを探った。

「Editor’s Note ーあるひとの収集日記ー」(2022年)
自分が収集した日記を公開することで、それに興味をもち触発され集まった参加者が、それぞれのテーマで自由に作品をつくるというもの。個人のリアルからうまれる他人のリアル。誰のものでもない新鮮なリアル。

日々の細かな記録があるからこそ、それらをバラバラに分解して再構成する意欲もうまれる。

「前の日」(2020年)
新聞の一面を構成する文字を数え、ひらがな、カタカナ、漢字それぞれ一文字単位ごとに分類し数量を数え藁半紙に水性インクを用いて再配置したものを背景として日付の白抜きタイポグラフィを浮かび上がらせた12ヶ月分のポスター。それぞれある出来事の前の日の新聞一面の文字から、その出来事の予兆を表している。

1新聞を分解するのに約1週間ということは12ヶ月分の素材12週間かかる。そこから構成して制作していく

…ということは…頭がくらくらしてきた。

まだ他にも作品があるわけですが、ひとつとして同じものはなく、まるでそれぞれ別人が発想したかのようなバリエーションをもつことも特徴的。

お話をしていて気づいたのは、ほぼどんな質問へも即答であること。よほど抽象的な質問でない限り、迷うことなく明確な答えが返ってくる(わからないものにはわからないと返ってくる)。日々をはかり記録したデータが入口さんにしかわからない異次元の棚で座標をもってストックされ与えられた条件によって即座に紐付き引き出される。そして他人の発想も相まって想定外ものがうまれる。もはや入口可奈子というジャンルだ。

どんなプロセスでどのような組み合わせのいきものがうまれるのか、、これからも楽しみである。

まずは、4月11日からはじまる個展「Prototype Design」最新作から。

by G

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【イベント情報】
入口可奈子個展「Prototype Design」

■会期:2023年4月11日(火)〜16日(日)12:00〜19:00
※金曜20:00迄
※最終日16:00迄
※月曜休廊
■会場:JINEN GALLERY
〒103-0001
東京都中央区日本橋小伝馬町7-8 久保ビル3F
TEL:03-5614-0976

◆関連URL
入口可奈子HP
https://kanakoiriguchi-portfolio.scale44.com/

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NUN podcast #18
はかるひと
ゲスト: 入口可奈子

【前編 / 80:51】


【後編 / 60:01】



2023.3.30 入口さん自宅にて収録
ナビーゲーター: イタミヒロシa.k.a 清水博志
アジリテーター: ギーコa.k.a 及川ギガ英貴社長

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入口可奈子

ものごとをはかることや記録することに関心を持ち、活動をしている、まだ何者でもないただのひとです。
いつか何者かと問われたら、「私は地面」と答えたいと思っています。