生ノ態【コト】

時々ボタニカル 02 【春編】

四万十の春の野草としまんとカフェの話

春は別れと出会いの季節。有機野菜を生産している弊社「(株)しまんと流域野菜」でも3年間の研修を終えて故郷へ帰っていくスタッフ、そして農業を学びにきてくれる新人スタッフがいます。新旧が入れ替わりながら日常は続いていくのだなと感じています。

四万十川の春といえば菜の花。私の住む四万十市では毎年「入田ヤナギ林 菜の花まつり」が開催されます。一面に広がる黄色い菜の花畑を見ていると、まるでおとぎの世界に迷い込んだような気分になります。四万十川といえばかつては日本屈指の暴れ川であり、河道内の植生管理が必須でした。数十年をかけ、環境に配慮されつつ河川敷の植生が整備されていく中で、アカメヤナギ、ヨシノヤナギを主としたヤナギ林ができ、西日本の河川でも代表する景観になりました。その後の河川管理では林立していたヤナギの木を選抜、伐採していったところ、鬱蒼としていた林に光が入るようになり、その足元に眠っていた菜の花の種子が光を得て自然発芽。現在ではヤナギ林の下に菜の花の黄色い絨毯が広がっています。上を見上げるとヤナギの若芽の薄緑色。青空とのコントラストもまた美しいです。
防災植物(身の回りに生えている食べられる野草)にも春の顔ぶれが揃ってきました。一年に一度だけ、この時期を逃すと来年まで会うことのできない植物もあります。

まず道端や堤防にニョッキリ出てくるのはツクシです。この植物は土の中に長く伸びた地下茎から葉のついた茎(スギナ)を出し、春には同じ根から胞子のついた茎(ツクシ)を出します。シダ植物に分類され、かわいい坊主頭に詰まった胞子を飛ばして繁殖していきます。茎の節にはサヤ状の小さな葉(ハカマ)があります。これは硬いので調理の際は手で丁寧に取って下さい。アクと胞子できっと親指が真っ黒になりますが、この作業も春を感じられる楽しい時間です。ハカマを取り除いたらさっと下ゆでをして、しばらく水にさらしておきます。さらした後の水は毒々しい緑色(胞子の色)になりますが、茎はえんじがかった冴えた色になります。この後は水気を切って甘辛く炒めたり、卵でとじるのが代表的な食べ方です。茎のシャキシャキ感と坊主頭のやさしい食感が楽しく、またほのかな苦味がよいです。

日当たりの良い堤防に生えるのはヤブカンゾウです。これを見つけるには少し離れたところから見ていきます。ヤブカンゾウの黄緑色は周りの植物より少しだけ明るく感じられます。葉は根元から左右互い違いに生えていて、細長い弓の形になるのが特徴です。ヤブカンゾウの一番美味しい部分は、土に埋まっている白い根元の部分です。みずみずしくて甘みがあり、なんとも爽やかな食感です。

この時期の若芽は柔らかいので、全体をさっとゆがいて酢みそで和えるのが代表的な食べ方です。4月以降はさらに成長して根元の白い部分も大きくなりますが、伸びた葉先は固くなることがあるのでその場合は切り落として使います。この後もぐんぐんと伸び、夏にはユリのようなオレンジの花を咲かせます。この花やつぼみがまた美味しい!のですが、それは次回にお伝えしましょう。

さて食べられる野草料理を提供している「四万十ふれーばー*ボウサイショクブツカフェ」、3月のメニューはこちらでした。

*セリの信田巻き
*ヤブカンゾウと椎茸の酢みそ和え
*ツクシとクリームチーズクラッカーのせ
*カラスノエンドウと紅芯大根の生春巻き
*ハコベのオムレツ
*文旦

スープはさつまいものポタージュ
天ぷらはフキノトウ、ヨモギ、カキドオシ、シロツメクサ、スギナ
ご飯とサラダがついて1000円也

生春巻きに入れたカラスノエンドウは、葉の開ききっていないこの時期が柔らかくて最高。生でかじると豆苗のような風味です。ライスペーパーの上にカラスノエンドウをふんわりと敷き、トリささみと切り干し大根、最後に真っ赤な紅芯(こうしん)大根のマリネを載せて巻きました。この紅芯大根はしまんと流域野菜が生産している野菜ですが、辛味が少なくサラダの彩りにも良い人気の野菜です。マリネのように酢と合わせることでさらに発色が良くなります。

全国的に菜種梅雨が続き、四万十でもあっという間に桜が開花しました。4月からスタートするNHK連続テレビ小説のタイトルは「らんまん」。高知県佐川町出身で世界にも名高い植物学者、「日本の植物学の父」と呼ばれる牧野富太郎博士がモデルです。生涯植物へ情熱を注ぎ続けた牧野博士の姿を通じて、全国にボタニカルファンが増えていくことを願っています。

by 齊藤 香織
日本防災植物協会事務局長、日本野菜ソムリエ協会認定野菜ソムリエ上級プロ、株式会社しまんと流域野菜代表取締役

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しまんとフレーバー*ボウサイショクブツカフェ

営業時間
毎月第三土曜日曜(月2回) 11:00〜17:00
店舗アクセス
四万十市津蔵渕1199-12 (国道321号線沿い、大文字山の近く)

四万十の新鮮な有機野菜と野草を美味しく食べられるカフェ


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